Migdal Bavel

朽ち果てたバベルの塔。頂上は見えない。■■■TW5にて活動中のノエル・カンパネルラ(e20841)に関する雑記。

【暗い夢】

 

#1

 

 子どもの頃に読んだ絵本に、こう書いてあった。

「小さき子、福音を聴きなさい。祈り、祝福された朝を迎えなさい。」

 

しかし、いつまで経っても私には祝福された朝は来ない。

祈り続けても、福音など聴こえない。

あるのは、一寸先も覚束ない、暗い闇ばかりだった。

 

「アレッサ、起きて。」

耳慣れた母の声で目を覚ました。

起こされるのは、随分久しぶりだ。

規則正しい朝の習慣が染みつき、長らく目覚ましには

頼らない日々が続いていたのに……。

「おはよう。」

「おはよう。朝ごはん出来てるわよ。」

少し、体が重たい。昨日見た奇妙な夢のせいだろうか。

走っても走っても目の前が暗い。

自分がどこを走っているのか、全く判然としない。

そして、背後に感じる何者かの気配。

姿が見えないが、私を追ってくる。

後ろだけじゃない、前も、上も、足元さえも……。

 

いや、やめよう。

たかが、悪い夢。頭で再生されていた映像を停止し、

ベッドから立ち上がった。

ひんやりと朝の空気が肌を刺す。

窓を見ると、空には厚い雲がかかっている。

予報では、雪が降ると言っていた。

今日は厚着をしていこう。

 

「行ってきます。」

居間のテーブルに座る父と、

キッチンから目を向け、笑顔で応える母の姿。

「あ、お姉ちゃん、待って!」

弟のジーンがバタバタと駆けてくる。

もうそろそろ、一緒に登校するのはやめにしたいんだけどなぁ。

 

いつも通り。何ら変わらない私の日常。

私は17で、高校生だった。

特筆すべきところはない、読書が好きな高校生。

優しい父と母、姉離れのできない弟がいる、至って平凡な家族。

それが、私。

アレッサ・グレイだった。

 

時として、平凡な日常は簡単に崩れ去ることがある。

そんな話を、数々の小説のなかで読んできた。

だが、自分が小説のような物語の主人公になることなどは

想像できるはずがない。

あんな悲劇を味わうくらいならば、

私は主人公になどなりたくなかった。