Migdal Bavel

朽ち果てたバベルの塔。頂上は見えない。■■■TW5にて活動中のノエル・カンパネルラ(e20841)に関する雑記。

【不死者】

 

#3

 母から聞かされた話だが、街はずれでデウスエクスが事件を引き起こしたらしい。

ヘリオライダーの予知により、被害は最小限に抑えられたらしいが、

住人の間には不安な空気がただよっていた。

予知というアドバンテージがあるとはいえ、万能ではない。

デウスエクスの温床となっている日本と比べれば

脅威の程は雲泥の差があるが、

ひとたび事件が起きてしまえば、娘や息子への身の心配は募るのだろう。

出掛ける準備をしているアレッサに、

母は不安を隠せない様子だった。

「ねえ、本当に気を付けてね」

「わかったってば。あんまり遅くならないから、心配しないで」

心配性の母に、コーヒーを飲んでいた父が笑いかけた。

「そんなんじゃ身が持たんぞ。大丈夫、いざとなったらケルベロス

しっかり仕事してくれるさ」

「でも……」

「アレッサ、しっかりやれよ」

サムズアップを投げかける父。

昨日から「そんなんじゃない」と繰り返してるのに、全然聞いてくれない。

「お姉ちゃん、どこいくの?」

「ノエルくんとデートだってさ」

えー、僕もいきたい! と駄々をこねるジーンを困った笑顔を向け、

アレッサは玄関のドアを開けた。

 

サキュバスという体質柄なのか、

異性から好意を向けられることは何度かあった。

その度に、父はあからさまに面白くない、といった態度を取っていたが

なぜかノエルに対しては別だった。

「彼は良い男だ。俺にはわかる」とは父の言である。

……いったい、どこに父の気に入る要素があるのだろう。

「どうしたの?」

ノエルが、アレッサの顔をうかがいながら言う。

「なんでもない」

彼の顔を見ることができなかった。

きっと、父のせいだ。父が的外れなことばかり言うから。

そう、的外れなのだ。

ノエルは、良き友人で、幼馴染。それだけの関係だ。

などと、自らの心に芽生え始めた不可解な感情を紐解いている

うちに、目的地である街はずれの聖堂に到着した。

褪せた石壁の外観は、建物の歴史を物語っている。

どうやらノエルによると、今日は聖堂で古書展が

開かれているとのことだ。

読書好きなシスター選りすぐりの本を、

希望者には無償で配布するという

本好きの二人にはたまらないイベントである。

「ちょっと難しそうなものが多いけど、

アレッサなら余裕でしょ?」

「……そんなことないよ」

ノエルが屈託の無い笑顔を向ける。

やはり、どこか楽しそうだ。

アレッサも自然と口が綻ぶ。

 

聖堂の鐘が鳴った。

よく響く、重圧を感じさせる音色だ。

ノエルが貸してくれた絵本、「大聖堂の鐘」のモデルは

この鐘らしい。

断続的に低い金属音が鳴り続く。

 

3度目の鐘が鳴り止んだ頃、

その事件は起こった。